乳がんを克服した話(弘法寺尼僧 小田海光さん)

今回は、弘法寺(港区三田にある)の尼僧でいらっしゃる小田海光さんから乳がんを克服した話を伺いました。
文京区では、乳がん検診や、ウィッグ助成を行っています。


えびさわ:文京区議会議員えびさわけいこ
海光さん:弘法寺尼僧 小田海光さん


対談の様子はこちらからご覧いただけます

-出家するまで

えびさわけいこ(以下 えびさわ):海光さんは、私の自民党政経塾時代の恩師、深谷隆司(数々の大臣を歴任していた政治家)塾長がお父様です。

弘法寺尼僧 小田海光さん(以下 海光さん):深谷隆司の次女の小田恵理と申します。
ご縁があって主人(小田全宏氏。政経塾の副塾長)が、ここのお寺の館長になりました。私は昨年得度しまして、海に光ると書いて海光という僧名を頂きました。

えびさわ:恵理さんがお坊さんになったと聞いてびっくりしました。遊びに来たときには既に剃髪もされていて驚きましたが、どうして急にお坊さんになろうと思ったのですか?

海光さん:急にではないです。政治家の家に生まれたので、それこそ父の志を受け継ぎたかった時期もあったのですよ。しかし、父の国を思う心や勉強する姿、さまざまな経験をずっと見てきて、これはとても足下には及ばないなと思って、政治家の夢は自然消滅に。それでもどなたかのお役に立ちたい想いはずっとありました。

10年ぐらい前に、自分が寂聴(瀬戸内)さんのような姿で話している映像が、ありありと頭の中で浮かんだのですね。

このお寺は、映画「おくりびと」のモデルになった、納棺師の木村さんという素晴らしい方と知り合ったのですね。
木村さんは弘法寺の代表を務めております。このお寺は霊廟もあり、お亡くなりになった方を大切にして毎日お勤めさせていただくと同時に、生きている人が活き活きと学ぶ昔の寺子屋みたいな場所です。そこの管長にと主人が木村さんからお願いされたため、そのご縁で思いがけず夢が叶うことに。ラッキーということで

えびさわ:まさに「願えば叶う」。それだけ強い願望だったのでしょうね。

-思いがけず乳がんに

えびさわ:お坊さんになったと伺い驚いて会いに行ってみたら、乳がんになられて明日が手術……のタイミングだったので、さらにびっくりしました。

海光さん:いいタイミングでお越し頂いて。ずっとお坊さんの勉強を仏道学院でしてきて、その卒業式とともに得度(僧侶になる第一歩の儀式)を受けた頃に発見しました。その日の朝から儀式もありましたので、何も口にできないし前日は緊張で眠れない。全部が終わった夜に暴飲暴食していたら、急に具合が悪くなっちゃって。病院に行って調べてもただの「食べすぎ」なだけですが、それでもお腹が苦しい。折角なので薬師如来の真言を唱えて、胃をさすりました。ところが、胸に「はっ」と真珠の玉みたいな感じのものに気づいて、きたきた乳がんだと。

えびさわ:びっくりしなかったのですか?

海光さん:今思えば予兆らしきものはありました。その半年くらい前に剃髪を決意した際、なんとなくがんになった時に便利だなと。

また、知人でがんを克服した方がいて、「もう自分は使わないから、よかったらどうぞ」ってカツラを下さったのですね。「彼女は2度とがんになってはいけない人だから、手放したカツラと一緒にがんの縁を断ち切ろう」と思った瞬間に、今度は自分かなって予感がありました。

えびさわ:それですぐに病院に行って、検査されたのですね。それが大切ですよね

海光さん:先生は深刻に「申し上げにくいのですが、これはがんだと思います。」っておっしゃったので、「さっさと切っちゃって下さい。」と。

生きていると色んな捉え方がありますが、例えば死や病気を不幸な出来事として見ていると、全員が不仕合せだということになってしまう。病気もその人の見方で変わると考えていましたが、自分が何の経験もないのに「気の持ちようです、前向きに生きましょう」と病気の方を励ましても、心に響かないじゃないですか。しかし、乳がんになった本人の言葉なのだから、ある意味説得力がある。

えびさわ:そういうことではないと思いますけど、超越してらっしゃいますね。

海光さん:しかも痛くも痒くもないので。前日に気づくまでは、乳がんの存在を知らないですよね、意識の中で。そして取り除いてしまえば、もう乳がんは体内にはいない訳ですよ。手術なので切った痛みはあったとしても、それ以外で辛いとか痛いとかはないです。

えびさわ:早期に発見して全て取って、今はがんがなくなったって事ですよね。

海光さん:親に話す時は悩みましたが、その前に剃髪した事も父には言えなかったのですよ。得度の後もしばらくカツラで通していたのですが、全然気づかれませんでした。とはいえ心にやましいものがある訳です。だけどがんになったので「抗がん剤で髪が抜けるかもしれません。安心して下さい、もうありません」と思いがけず告白できました。

えびさわ:深谷先生、それは驚いたでしょうね‼

海光さん:さすがにその時はしんみりしていました。皆さんには心配かけて申し訳なかったけど。

ある意味、がんになってなければお坊さんになる決心がついてなかったかもしれないですよね。髪を剃ったけどこれでいいのかなといった迷いが、得度した後でもどこかでありました。だけど、乳がんになったことで「ああ、こういう道なのだ」って。

えびさわ:逆に導かれたのかもしれないですね。

海光さん:実際に抗がん剤で髪の毛抜けたりなどの副作用かありますが、私はなぜか分からないけど長年の嗅覚障害が治ったのですよ。5年間くらい匂いが分からなかったのが。

えびさわ:体の全体のバランスが色々と変わったのでしょうか。

海光さん:それは謎ですが。普通は皆さん、抗がん剤で食べられなくて吐いたとかおっしゃいますが、私は打ち始めた時もありがたくて涙が出てきたのね。「誰かが開発したおかげで、たくさんの命が救われているんだなぁ」と。それと同時に今度は匂いが分かるようになったから、何食べても美味しいのですよ。

えびさわ:細胞が活性化されたのでしょうか。

海光さん:多分55年も生きていると、身体中の悪いものがどっかに溜まっていて私の中で結晶化されている。それがポロッと出たというイメージなので。どこも悪いところが無くなったと。

えびさわ:こんなことを言ってもいいのか分からないですが、がんになってまた新たな道が開けてきて、そこから自分が変わった。そんな感覚でしょうか

海光さん:そうですね、入院中もものすごく楽しかった。例えば皆さんががんになって「悲しいし辛い、髪の毛も抜けるし」って不安がありますよね。でも、抗がん剤って終わったらすぐ生えてきますから。乳がん活動を積極的にするつもりはないですが、会った女性には「調べておいた方がいいよ」と自分の体験を話しておけば、少しは誰かのお役にたてる訳ではないですか。

えびさわ:早期発見でそれを取れば、日常を過ごすことができるのですね。

海光さん:セルフチェックはやっぱり大事だな、と思いますね。乳がんに関係なく全てのことにいえますが、特に「これはおかしい」といった自分の心の声にちゃんと耳を傾けることはすごく重要かなと思います。

-ウィッグ助成に関して

えびさわ:文京区でも乳がんなどのがん治療で髪の毛が抜けてしまった人に対してウィッグ助成をしているのですよね。

海光さん:知らなかった、文京区に住んでいるけど。

えびさわ:上限1/2の3万円まで補助しております。今年の5月から始まりました。

海光さん:文京区は素晴らしいですよね、議員の先生方が頑張ってらっしゃるから。

えびさわ:少しずつこれからも頑張っていきたいとは思っているのですが。

海光さん:お役に立てることがあればいつでもおっしゃってください。道を歩いている時はカツラを被っておりますが。

えびさわ:カツラだって分からないものですか?

海光さん:意外と人には気付かれないものです。僧衣姿を知っている方と着替えてからお会いしたことがあったのですが、「初めまして」と皆さんおっしゃる。

えびさわ:カツラを被ることに抵抗があるようですが、周りには分からないものですよ。せっかく「ウィッグ助成金」があるので、しっかりと利用していただきたい。

海光さん:治療の期間が終わればすぐ生えて来ちゃいますからね。その方がいいのでしょうが。

えびさわ:安心して抗がん剤治療も受けていただきたいです。

 

-自分の幸せに責任を取る

えびさわ:今日は学生さんがいるので、ひとことお願いいたします。

海光さん:私はいつも決めていることがあって、今日一日の自分自身の幸せにしっかり責任を取ろうと、いつも決めています

ないものねだりをするよりは、今ある自分の幸せがいかに素晴らしいかということに気が付く。それが「自分の幸せに責任を持つ」っていうことだと思います。

あともうひとつは、1日のうちにちょっとでもいいので誰かに幸せを提供する、つまり誰かのお役に立てることです。

えびさわ:以前にお話しをされていましたね。バスを降りる時に「ありがとう」って声をかけるだけでもいいから、そういう風にして幸せを分けた方がいいって。

海光さん:今日もそうでしたが、えびさわさんは「お時間を作っていただいてすみません」っておっしゃるでしょ。だけど私は「これで人のお役にたてて良かった。今日の人生は完結できてありがたい」と考えています。人への親切は相手のためのようでも自分のためのようでもあり、結局は一対かなと。

えびさわ:非常にいい話を今日は聞かせていただいて、ありがとうを言えるように私もが頑張ります。今日は長時間ありがとうございました。

海光さん:お悩みがあったら何でも、いつでも皆さん弘法寺にお越しいただけたらと思います。連絡いただけたら、すぐ走って僧衣に着替えますので。

 

ライター 乙部 雅子


参考リンク

子どもが自分で考え、自分の言葉で意見が言える人になるように(アルバ・エデュ代表 竹内明日香さん)

えびさわ:文京区議会議員えびさわけいこ
竹内さん:アルバ・エデュ代表 竹内 明日香さん


対談の様子はこちらからご覧いただけます

えびさわけいこ(以下 えびさわ):こんにちは。
本日は、一般社団法人アルバ・エデュ代表の竹内明日香さんのお話を伺います。
竹内明日香さんは、『すべての子供に話す力を』の著者でもあります。よろしくお願いします。

アルバ・エデュ代表 竹内 明日香さん(以下 竹内さん):よろしくお願いします。

えびさわ:まずは竹内さんの自己紹介と簡単にアルバ・エデュについて伺えますか。

竹内さん:竹内明日香と申します。文京区には五代前から住んでいます。

えびさわ:五代前ですか、初めて知りました。五代前っていつからですか。

竹内さん:江戸時代です。

えびさわ:すごい!じゃあ根っからの文京区民ですね。

竹内さん:はい、文京区に住んで、子供たちも公立小学校に行って、PTAをしたり、オーケストラを作ったり、このアルバ・エデュという活動で幼稚園から大学まで28校で授業をさせていただいたり。
ルバ・エデュはですね、「子供たちが堂々ハキハキと自分の意見を言えるように」ということを目指して、先生方に検証したり、モデルになるような授業を出前したり、あるいは教材を提供したりしています。子供たちが自己肯定感を育みながら、話す事が苦ではなくなるように、という活動です。

-子ども達と「話す力」

えびさわ:竹内さんは、文京区だけでなく色々な自治体に行ってこの話し方の講座をやっていらっしゃいますが、自治体によって違いはありますか。

竹内さん:今年度は全部で11の自治体に行っていますが、その中でも文京区の子たちは学力も自己肯定感も高い子が多いです。
その反面、この本に書いたのはまさに文京区の子供達についてなんですけれど、何を言ってもいいんだよ、自分の好きなことを語ろうと言っても、「なんて言ったらいいですか」「正解は何ですか」と正解を探ってしまう、それがもったいないなあと思っています。

子ども達はすごい力を持ってるので、話す力さえあれば、もっとパワフルになると思います。そしてそういう子どもたちの周りの大人、保護者のみならず地域の大人も、どうやってその子どもたちをほぐしてもっと戦力にできるか、そういうことを考えて活動しています。

えびさわ:竹内さんの授業を受けた前と後で子どもたちはどんな風に変わっているんですか。

竹内さん:話すことが苦手ではなくなったという子どもたちが増えました。
それだけではなく、例えば(6:54)文京区立文林中学校は7回の授業の結果、一般の教科の学力も上がりましたね。

えびさわ:すごい!

竹内さん:あとは今まさに効果測定を大学の先生方と進めているんですけれども、そこで出てきた結果としては、「何か自分ができるかも」あるいは「自分が世の中のために役に立ちたい」とかそういった感情が芽生えていきます。
これを私たちは〈自己肯力〉と呼んでいるのですが…

えびさわ:〈自己肯力〉ですか?

竹内さん:授業の中で、「世の中は変えられる、そのためにプレゼンがある」と、その言葉を繰り返し繰り返し伝えていくんですね。

えびさわ:世の中は変えられる、そのためにプレゼンはあるんですね。

竹内さん:世の中には言い出しっぺがいて、その人が自分の熱い気持ちを語っているうちに周りの人が巻き込まれて、そうやって少しずつ世の中が良くなっているんだよって。だからね、恥ずかしがらずに言い出しっぺになってね、ということを伝えてきました。

えびさわ:なかなか言い出しっぺになれないですよね。これを言ったら周りになんて思われるかなって気になってしまって…
竹内さんは幼少期を海外でお過ごしになって、そこでは全然平気だったのに日本に戻ってきたらなかなか自分の意見が言えなくなってしまった、というお話がありましたね。

竹内さん:そうなんですよね、自己主張するとやっぱ出る杭が打たれるとうか、周りに合わせてやめたほうがいいんじゃないかいう空気感がありました。
でもそれってとっても危険で、自分の意見をきちんと持たないと流されちゃう可能性もあるわけで。

えびさわ:そうですね。

竹内さん:ですからやっぱりそれは最後の一人になっても反対できる、あるいはもっとこっちのほうがいいかも、というその最初の言い出しっぺになれる、そのことはとっても大事なんだよ、ということを言っていきたい。

えびさわ:すごい、なかなかなれないですよ。

-考える・伝える・見せる

えびさわ:竹内さんの授業を1時間受けただけで子どもたちが変わるそのちょっとしたポイントを教えていただけますか。

竹内さん:最初に世の中がどうやって変わってきたのかというお話をしながら、次にプレゼンのコツを伝えるんです。「考える・伝える・見せる」このスリーステップで積み上げていくと。

えびさわ:「考える・伝える・見せる」ですね。

竹内さん:はい、で例えばパワポの作り方、そのデザインとか絵が苦手でも良いし、大きな声が出ないのだったら発声練習をすればいいし、これらももちろん大事なんだけれども最も大事なのは一番この土台になる“考える力”なんだよ。
それは別に誰かがそれが正しいと言っているとか、こう言っとくとなんかうけるかな、ではなくて自分がこれが好きなんだという強い思いを伝えればいいんだよ、っていうお話をするんですよね。

そうすると子供たちって妙に力が湧いてくるというか、じゃあなんでもいいんだったらこんなこと言っていいですか、素敵だから言っちゃおう言っちゃおう!みたいなことで、だんだんみんなこう、メラメラと楽しそうになっていって、で授業の最後にはなんかみんなキラキラと。

えびさわ:キラキラと、いいですね
みんなこう何かしたいとかそういう心の中の思いっていうのはいっぱいあると思うんですけどそれをこう表現して、表現するんだってことをきちんと考えることを教えるってことですね。

竹内さん:そうですね、せっかく良い物を持っていてもその本当最後の伝える力がないがためにそれがまったく活かされずに、存在してないのと同じになってしまうという状況を私はビジネスの現場でたくさん見てきたんですね。
次世代を担う子供たち若者たちにはそこをなんとかこう克服してぐっと上がっていってもらいたいなって思います。

えびさわ:そうですね、自分たちが夢を掴むためにも自分で自分の心で自分の声で言葉で自分のことを表現していく力をぜひ付けてもらいたいと思います。

-文京区のデジタル教育

えびさわ:竹内さんには文京区がすべての小中学校にタブレットを導入した際、先生方へデジタル教育の指導をしていただきましたが、いかがでしたか?

竹内さん:最初はもうzoomひとつやるのも結構大変だったんですが、あっという間に先生方は使いこなしておられて、そして何よりやっぱり子どもたちは使いこなすのが早いですね。

えびさわ:文京区のタブレット学校教育で課題に感じてることはありますか。

竹内さん:そうですね、電源を入れてからのレスポンスがちょっと遅い機種が入ってしまっていることと、あとは教材やノートを置いてくるっていうことがまだ徹底されていないのでランドセルがものすごく重いんですね。

えびさわ:すっごい重いっていうのは今子供たちに会うたび言われます。

竹内さん:なのであれをなんとか…

えびさわ:そうですね。

竹内さん:デジタル教材の導入もそうですしね、あとはそのメリハリをつけてアナログで対応できるものはしていくとか、そこがうまく調整できるともう少し子供たちの背骨も曲がらなくて済むかなという感じですね。

えびさわ:そうですね、ピンっと。これからやっぱりせっかくタブレット導入されたので、タブレットのリニューアルもそうですけど、やっぱり電子教科書をもっと取り入れて、子どもたちが教科書重いのを持って歩かなくていいような形に私も推進していければいいなと思うので是非またその時もいろいろアドバイスよろしくお願いいたします。

竹内さん:こちらこそよろしくお願いいたします。

えびさわ:今日は本当に色々ありがとうございました。

ライター 乙部 雅子


参考リンク

ペットは家族だからこそ、ペットのためにしつけを(PLSC 上形元惠さん)

今回は、ペットの保護活動をしている「ペットライフサポートカンパニー」の上形元惠さんからお話を伺いました。
上形さんは、10月に開催する「犬猫里親会」で、しつけ相談を引き受けてくださいます。
ペットのためにしつけについて、お話を伺いました。


えびさわ:文京区議会議員えびさわけいこ
上形さん:ペットライフサポートカンパニー代表 上形 元惠さん


対談の様子はこちらからご覧いただけます

 

-「ペットライフサポートカンパニー」の活動について

えびさわけいこ(以下えびさわ):上形(かみかた)さんは、どうしてこの事業を立ち上げたのですか。

ペットライフサポートカンパニー代表 上形 元惠さん(以下上形さん):
ペットライフサポートカンパニー自体は、犬のトレーニング、しつけ、それからお預かりが主体です。
若い頃に仕事の都合で海外出張が多く、当時は3頭くらい犬を飼っていたのですが、トレーナーの方に預かっていただいたのですね。

長期出張していたオーストラリアでは犬の牧場を見学したりして、動物についても学ばせていただきました。そして日本に戻ってしばらくしてから、体を壊しました。休養中に次の進路を考えていた時、犬たちをお願いしていたトレーナーさんにいろいろ教えていただいて、ペットを訓練する今の仕事に決めました。

えびさわ:本来は訓練をするお仕事なのですね。1日でどれくらいお預かりしていますか?

上形さん:今はコロナ渦なのでここ2年は少ないですが、それ以前で多い日は1日で10頭ほどお預かりしていました。仲がいい子同士は一緒にお散歩ができますが、そうでない時は犬の数だけ散歩することもあります。外出することに。

えびさわ:1日中散歩している日もあるのですね、それは大変!

 

-飼い方のポイント

えびさわ:皆さんの中には、犬の飼い方やしつけで悩んでいる人も多いと思うので、ちょっとしたポイントを教えて頂けますか?

上形さん:まずは「人と暮らすために、犬にしてほしい」ことを前提に考えることです。

子犬を飼い始めたとしたら、犬のお母さんがどうやって子育てするかを学んでいただけるのがいいのかなと思います。今、えびさわさんにお世話になり里親さんを探す保護活動をしています。野犬の子をお預かりして、里親さんを探していますが、野犬の子たちは犬の群れの中できちんと育っているので、吠えないし噛まない。ただし、人が子犬の時から育てていると、鳴き声がうるさくて噛むようになります。

えびさわ:私も小さい頃から犬を飼っていたので分かりますが、ものすごく吠えます。

上形さん:なぜ人が育てるとそうなるかというと、子犬のうち「かわいいかわいい」と人は触るでしょ。ところが、犬のお母さんは甘やかしたりしませんから。ちょろちょろして危ないことしていたら「ダメ」と叱る。子犬が遊んでいるときに、横になっているお母さんの尻尾をかじってみて、すごく痛かったりすると怒ります。子犬の方もびっくりしながら「この強さで噛んだらいけない」と学習します。

えびさわ:野犬の子犬が吠えないのも、お母さんから学習するのでしょうか。

上形さん:子犬が鳴き始めたらみんなの居場所が分かってしまうので、「鳴いてはいけない」とお母さんなど大人の犬が教えます。鳴き声が敵に聞こえると襲われるので、吠えるなと。野犬は怖いって皆さんは考えますが、実は大人しいですよ。

えびさわ:吠えないですね。実は何匹もこの周りに犬がいますが、とっても静かです。

上形さん:人間の方に引き寄せるのではなく、「犬を犬としてきちんと育てる」。このポイントを守っていただければ、賢くていい犬に成長するということですね。

えびさわ:私、常に「ペットは家族です、ファミリーです」って言っているのですが、確かに家族だけど人間ではないことを前提にしないと、ワンちゃんや猫ちゃんにいい影響はないのですね。

上形さん:ポイントを捉えてきちんと叱ること、それ以上のことはしないことです。本当に優しくかわいがるとはどういうことかを、考えるようにして頂きたいです。
噛むから、吠えるからそんな理由で動物愛護センターに持ち込まれる犬や猫が増えています。この問題を防ぐためにも、飼い主の方でペットをきちんとしつけることが最も大事です。

えびさわ:それがワンちゃんや猫ちゃんの命を守ることにつながる行為なのですね。これから殺処分0を目指していかないといけないのに、かわいいと思って飼っても「自分になつかないから」と手放してしまう方もいらっしゃると思いますが。

上形さん:今、コロナ渦で犬や猫を飼う方が増えていますが、「おしっこをするからイヤだ」などの単純な理由で持ち込む事例もありますね。

えびさわ:動物だから鳴くし、おしっこやうんちをするのが当たり前。それが分からずに「かわいい」だけで飼ってはだめですよ。その辺を皆さんにも理解していただきたいです。

 

-「犬猫里親会」でペットをお迎えする時

えびさわ:10月に「犬猫里親会」を上形さんと一緒に開催します。
里親会でペットを飼おうと考えている方に対して、何か助言はありますか?

satooyakai_20221029のサムネイル上形さん:保護犬や保護猫がすぐ家庭になじむというのは難しいことなので、保護団体さんとの間でトライアル期間を設けて、その間に一緒に生活していけるかを試していただきます。きちんと動物との相性を見極めていただくことも大事です。

また、せっかくマッチングが成立しても、ペットが病気になったために手放したり、逆に飼い主側の事情で飼い続けるのをやめたりする方もいます。そんなことがないように、一度お迎えしたら最後まで面倒を見て、たとえ自分が倒れてもお世話をする位の覚悟を持っていただきたく思います。

えびさわ:やっぱり命を預かるわけですから、一緒に最後まで過ごす覚悟で飼っていただきたいものです。今度の「犬猫里親会」でもそういう方々に来ていただいて、1匹でも多くのワンちゃんネコちゃんの新しい飼い主が見つかるといいですよね。

上形さん:犬猫を飼いたいけど躊躇している方や、どうやって飼ったらいいのか分からない方もいると思うのですが、ちょっと足運んで頂けるだけでイメージが湧くのではないでしょうか。もしも飼いたいけどいきなりは難しいということであれば、愛護団体さんの中には、預かりボランティアさんを募集している所もありますよ。

えびさわ:預かりボランティアさんは、どんな活動をしているのですか?

上形さん:各団体さんは、既に預かっている動物の数をオーバーしているのが現状です。すると、自分のシェルターだけで置いておけない。そこで保護されている動物の性質を見て、ボランティアさんに預かっていただく活動です。期間については、いろんなケースがありますので一概には言えませんが。

えびさわいきなり飼うという方法ではなく、トライアルで様子を見ることもできますし、預かりボランティアに応募してみるのもいいですね。

上形さん:それも方法の一つだと思います。

えびさわ:少しでも多くのワンちゃんネコちゃんの命が救われることを願っているので、再び継続的に里親会ができたらいいですね。コロナ禍でここ数年は実施できなかったのが残念です。

上形さん:えびさわさんのおかげで今回は場所も決めていただけたので、引き続きよろしくお願いします。

 

-災害時のペットとの同行避難はどうする?

えびさわ:災害時のワンちゃんの同行避難について、どのように考えたらいいのか、アドバイスを頂けますか?同行避難対策として、これからも避難所を増やしていこうと区でも使命があるのですが。

上形さん:東日本大震災のような大きな震災が起きた時にどうするかについて、お話をしたことがありますが、犬にしても猫にしても、日ごろの飼育環境が一番大事になってくると考えています。小さいうちから甘やかして育てると、クレートやハウスに入るということができず、ワンワン吠え続ける。そうなると、大勢の中に入っていくのは難しいでしょうね。「ここに犬いたの?」と周りが感じるくらい大人しくしてくれる方が、安心して避難もできると思います。まずは、その子の一生の中でどんなことが起きるかを考えてしつけをしていく、それが大事です。

えびさわ:その子の一生の中で起きることを想定すると、災害以外にもいろいろとありそうですね。

上形さん:例えば(ペットが)病気で入院することも考えられます。入院しているときにケージに入れられてしまうと、耐えられなくなって治るものも治らなくなる。そんな場面を想定し、どんな時でも落ち着いていられるよう、日頃からの環境とトレーニングが大事だと考えています。

災害時の同行避難の話に戻りますが、避難所が増えていると思いますが、ペット同伴ができる場所なのかを明記することも大事です。熊本の地震の時も、大丈夫な避難所とそうでない避難所があったようです。

えびさわ:ペットがいるから避難所に行きたくない方も、熊本にもたくさんいましたね。車の中で飼っている方もいらしたので、ペットも大丈夫な避難場所をつくる事も大切だと感じました。これから頑張っていきたいと思います。

 

―飼い主さんへの指導も

えびさわ:上形さんとの対談を通して、飼い主さん側にしつけや飼育に関するきちんとした知識を持ってもらうことはとても大事だと実感しています。ワンちゃんのしつけだけでなく、飼い主さんに、しつけの手ほどきもされていると伺いましたが。

 上形さん:ほとんどが飼い主さんへの指導です。預かってトレーニングすると、ほとんどのワンちゃんがちゃんと言うこと聞いてくれますが、おうちに帰るとダメになるというのはよく耳にする話です。それは飼い主さんがなかなか覚えないからです。当社では飼い主さんも一緒に実践しながら指導をします、「こういう時はこうする」と。自分の犬だと甘やかしてしまうから難しい面もあるのですが、日頃から一番お世話をしている方だからこそ、身に着けていただきたいです。

えびさわ:そうですね。これからもぜひ、ワンちゃんネコちゃんのために、ますます良い環境づくりをご一緒にさせていただければと思いますので、よろしくお願いいたします。今日はありがとうございました。

ライター 乙部 雅子

文京区では、かわいそうな猫ちゃんを増やさないために、飼い主のいない区内の猫に対し、去勢・不妊手術の一部を助成しています。 ※事前の申込みが必要です


参考リンク

SNS

SNSでえびさわけいこの日頃の活動をお届けしています。 ぜひ御覧ください。