今回は、弘法寺(港区三田にある)の尼僧でいらっしゃる小田海光さんから乳がんを克服した話を伺いました。
文京区では、乳がん検診や、ウィッグ助成を行っています。
えびさわ:文京区議会議員えびさわけいこ
海光さん:弘法寺尼僧 小田海光さん
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-出家するまで
えびさわけいこ(以下 えびさわ):海光さんは、私の自民党政経塾時代の恩師、深谷隆司(数々の大臣を歴任していた政治家)塾長がお父様です。
弘法寺尼僧 小田海光さん(以下 海光さん):深谷隆司の次女の小田恵理と申します。
ご縁があって主人(小田全宏氏。政経塾の副塾長)が、ここのお寺の館長になりました。私は昨年得度しまして、海に光ると書いて海光という僧名を頂きました。
えびさわ:恵理さんがお坊さんになったと聞いてびっくりしました。遊びに来たときには既に剃髪もされていて驚きましたが、どうして急にお坊さんになろうと思ったのですか?
海光さん:急にではないです。政治家の家に生まれたので、それこそ父の志を受け継ぎたかった時期もあったのですよ。しかし、父の国を思う心や勉強する姿、さまざまな経験をずっと見てきて、これはとても足下には及ばないなと思って、政治家の夢は自然消滅に。それでもどなたかのお役に立ちたい想いはずっとありました。
10年ぐらい前に、自分が寂聴(瀬戸内)さんのような姿で話している映像が、ありありと頭の中で浮かんだのですね。
このお寺は、映画「おくりびと」のモデルになった、納棺師の木村さんという素晴らしい方と知り合ったのですね。
木村さんは弘法寺の代表を務めております。このお寺は霊廟もあり、お亡くなりになった方を大切にして毎日お勤めさせていただくと同時に、生きている人が活き活きと学ぶ昔の寺子屋みたいな場所です。そこの管長にと主人が木村さんからお願いされたため、そのご縁で思いがけず夢が叶うことに。ラッキーということで
えびさわ:まさに「願えば叶う」。それだけ強い願望だったのでしょうね。
-思いがけず乳がんに
えびさわ:お坊さんになったと伺い驚いて会いに行ってみたら、乳がんになられて明日が手術……のタイミングだったので、さらにびっくりしました。
海光さん:いいタイミングでお越し頂いて。ずっとお坊さんの勉強を仏道学院でしてきて、その卒業式とともに得度(僧侶になる第一歩の儀式)を受けた頃に発見しました。その日の朝から儀式もありましたので、何も口にできないし前日は緊張で眠れない。全部が終わった夜に暴飲暴食していたら、急に具合が悪くなっちゃって。病院に行って調べてもただの「食べすぎ」なだけですが、それでもお腹が苦しい。折角なので薬師如来の真言を唱えて、胃をさすりました。ところが、胸に「はっ」と真珠の玉みたいな感じのものに気づいて、きたきた乳がんだと。
えびさわ:びっくりしなかったのですか?
海光さん:今思えば予兆らしきものはありました。その半年くらい前に剃髪を決意した際、なんとなくがんになった時に便利だなと。
また、知人でがんを克服した方がいて、「もう自分は使わないから、よかったらどうぞ」ってカツラを下さったのですね。「彼女は2度とがんになってはいけない人だから、手放したカツラと一緒にがんの縁を断ち切ろう」と思った瞬間に、今度は自分かなって予感がありました。
えびさわ:それですぐに病院に行って、検査されたのですね。それが大切ですよね。
海光さん:先生は深刻に「申し上げにくいのですが、これはがんだと思います。」っておっしゃったので、「さっさと切っちゃって下さい。」と。
生きていると色んな捉え方がありますが、例えば死や病気を不幸な出来事として見ていると、全員が不仕合せだということになってしまう。病気もその人の見方で変わると考えていましたが、自分が何の経験もないのに「気の持ちようです、前向きに生きましょう」と病気の方を励ましても、心に響かないじゃないですか。しかし、乳がんになった本人の言葉なのだから、ある意味説得力がある。
えびさわ:そういうことではないと思いますけど、超越してらっしゃいますね。
海光さん:しかも痛くも痒くもないので。前日に気づくまでは、乳がんの存在を知らないですよね、意識の中で。そして取り除いてしまえば、もう乳がんは体内にはいない訳ですよ。手術なので切った痛みはあったとしても、それ以外で辛いとか痛いとかはないです。
えびさわ:早期に発見して全て取って、今はがんがなくなったって事ですよね。
海光さん:親に話す時は悩みましたが、その前に剃髪した事も父には言えなかったのですよ。得度の後もしばらくカツラで通していたのですが、全然気づかれませんでした。とはいえ心にやましいものがある訳です。だけどがんになったので「抗がん剤で髪が抜けるかもしれません。安心して下さい、もうありません」と思いがけず告白できました。
えびさわ:深谷先生、それは驚いたでしょうね‼
海光さん:さすがにその時はしんみりしていました。皆さんには心配かけて申し訳なかったけど。
ある意味、がんになってなければお坊さんになる決心がついてなかったかもしれないですよね。髪を剃ったけどこれでいいのかなといった迷いが、得度した後でもどこかでありました。だけど、乳がんになったことで「ああ、こういう道なのだ」って。
えびさわ:逆に導かれたのかもしれないですね。
海光さん:実際に抗がん剤で髪の毛抜けたりなどの副作用かありますが、私はなぜか分からないけど長年の嗅覚障害が治ったのですよ。5年間くらい匂いが分からなかったのが。
えびさわ:体の全体のバランスが色々と変わったのでしょうか。
海光さん:それは謎ですが。普通は皆さん、抗がん剤で食べられなくて吐いたとかおっしゃいますが、私は打ち始めた時もありがたくて涙が出てきたのね。「誰かが開発したおかげで、たくさんの命が救われているんだなぁ」と。それと同時に今度は匂いが分かるようになったから、何食べても美味しいのですよ。
えびさわ:細胞が活性化されたのでしょうか。
海光さん:多分55年も生きていると、身体中の悪いものがどっかに溜まっていて私の中で結晶化されている。それがポロッと出たというイメージなので。どこも悪いところが無くなったと。
えびさわ:こんなことを言ってもいいのか分からないですが、がんになってまた新たな道が開けてきて、そこから自分が変わった。そんな感覚でしょうか
海光さん:そうですね、入院中もものすごく楽しかった。例えば皆さんががんになって「悲しいし辛い、髪の毛も抜けるし」って不安がありますよね。でも、抗がん剤って終わったらすぐ生えてきますから。乳がん活動を積極的にするつもりはないですが、会った女性には「調べておいた方がいいよ」と自分の体験を話しておけば、少しは誰かのお役にたてる訳ではないですか。
えびさわ:早期発見でそれを取れば、日常を過ごすことができるのですね。
海光さん:セルフチェックはやっぱり大事だな、と思いますね。乳がんに関係なく全てのことにいえますが、特に「これはおかしい」といった自分の心の声にちゃんと耳を傾けることはすごく重要かなと思います。
-ウィッグ助成に関して
えびさわ:文京区でも乳がんなどのがん治療で髪の毛が抜けてしまった人に対してウィッグ助成をしているのですよね。
海光さん:知らなかった、文京区に住んでいるけど。
えびさわ:上限1/2の3万円まで補助しております。今年の5月から始まりました。
海光さん:文京区は素晴らしいですよね、議員の先生方が頑張ってらっしゃるから。
えびさわ:少しずつこれからも頑張っていきたいとは思っているのですが。
海光さん:お役に立てることがあればいつでもおっしゃってください。道を歩いている時はカツラを被っておりますが。
えびさわ:カツラだって分からないものですか?
海光さん:意外と人には気付かれないものです。僧衣姿を知っている方と着替えてからお会いしたことがあったのですが、「初めまして」と皆さんおっしゃる。
えびさわ:カツラを被ることに抵抗があるようですが、周りには分からないものですよ。せっかく「ウィッグ助成金」があるので、しっかりと利用していただきたい。
海光さん:治療の期間が終わればすぐ生えて来ちゃいますからね。その方がいいのでしょうが。
えびさわ:安心して抗がん剤治療も受けていただきたいです。
-自分の幸せに責任を取る
えびさわ:今日は学生さんがいるので、ひとことお願いいたします。
海光さん:私はいつも決めていることがあって、今日一日の自分自身の幸せにしっかり責任を取ろうと、いつも決めています。
ないものねだりをするよりは、今ある自分の幸せがいかに素晴らしいかということに気が付く。それが「自分の幸せに責任を持つ」っていうことだと思います。
あともうひとつは、1日のうちにちょっとでもいいので誰かに幸せを提供する、つまり誰かのお役に立てることです。
えびさわ:以前にお話しをされていましたね。バスを降りる時に「ありがとう」って声をかけるだけでもいいから、そういう風にして幸せを分けた方がいいって。
海光さん:今日もそうでしたが、えびさわさんは「お時間を作っていただいてすみません」っておっしゃるでしょ。だけど私は「これで人のお役にたてて良かった。今日の人生は完結できてありがたい」と考えています。人への親切は相手のためのようでも自分のためのようでもあり、結局は一対かなと。
えびさわ:非常にいい話を今日は聞かせていただいて、ありがとうを言えるように私もが頑張ります。今日は長時間ありがとうございました。
海光さん:お悩みがあったら何でも、いつでも皆さん弘法寺にお越しいただけたらと思います。連絡いただけたら、すぐ走って僧衣に着替えますので。