「対談!えびさわけいこが聞きました」
今回は、小石川の和菓子店「一幸庵」の店主、水上力さんから
和菓子にまつわる食文化についてのお話を伺いました。
えびさわ:文京区議会議員えびさわけいこ
水上さん:「一幸庵」店主 水上力さん
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―和菓子職人になるまで
えびさわ:水上さんは和菓子屋さんの四男だと伺いましたが、どうして和菓子職人になったのですか?
実は大学時代は商学部だったというお話もちょっと聞いたので、その辺のお話を教えていただけますか。
水上さん:公認会計士になろうと夢見ており、高校時代からずっとダブルスクールで簿記の勉強や会計学の勉強をしていたのですが、ちょうど大学に入る頃が70年安保の真っただ中で、勉強よりもそっちの方が……。
えびさわ:へー!今の水上さんからは全く想像がつかないですね。
水上さん:心の中は、若干それも残っているのだけどね。
えびさわ:日本を変えようとする意識が。
水上さん:結局文化を守るということが大事なことで。学生運動をやっていた頃、三島由紀夫の早稲田大学での「学生との対話」があって、日本の文化を守ることは大切だとちょっと教えられた。それで、父に和菓子の職人になりたいと伝えた時に、「お前まで菓子屋になる必要はない」と拒否されて。しかし、父親の職人時代の仲間を通じて、京都で修業に入ったのです。
えびさわ:そして、28歳で独立しましたよね。
水上さん:それから29歳で結婚して、ずっと今日まで和菓子職人ということです。
えびさわ:40年以上も続けられて、すごい事ですね。
―和菓子の「和」とは
えびさわ:水上さんは、日本の文化を小石川から守っているとでも申しましょうか。
水上さん:はい、和菓子そのものについて、皆なよく分かってないもの。
「和って何ですか」って聞いてきたりするし。聖徳太子の17条の憲法の「和を以て貴しとなす」の和とは何って聞いたら答えられる人は、ほとんどいないと思うんだよ。「わ」と読んじゃうから分からないので、「やわらぎ」と読む。「やわらぎを以て……」だと何となく分かってくるのでは。和菓子はつまり、やわらぎのお菓子なんだよ。
えびさわ:和菓子は心をやわらげるお菓子という解釈で、よろしいですか。
水上さん:そう、例えば「お茶請け」って言葉があるけれど、「うける」は受という字ではなくて、「請け負う」の請。お茶を請け負うってどういうことだと思う?
えびさわ:どういうことですか?
水上さん:お茶を請け負うとはお茶の味を保証するということではない。建築請負契約とは、「建物がちゃんと完成するのを保証しますよ」ということでしょ。それで請負契約っていうのを結ぶわけですよ。
だから、お茶とお菓子も請負契約による関係です。だから私は、お茶は殿様、お菓子は殿様を忠実に補佐する侍という名の家来。そんな位置づけで考えています。
えびさわ:そうなのですね、お菓子は主役にはならず、しっかり盛り上げる脇役という感じなのですか。
水上さん:茶道を習っている人だったら大体分かると思いますけど、お菓子を食べてその甘さが口に残っているときにお茶を飲む。すると、お菓子の味がお茶の渋みを打ち消し、うまみを残して、「お茶がおいしいな。日本人に生まれて良かったな」って精神的な……。
えびさわ:やわらぎですね。
水上さん:で、その瞬間にお菓子の甘さだとかいろんなものが、そこから立ち去って消えると。
えびさわ:なんとまぁ、謙虚ですね~。
水上さん:甘さが口に残っていたら、それは殿様を打ち消すことになっちゃうじゃない?
えびさわ:まさに和、つまり日本ですね。日本人の心を表現しているお菓子なのですね。
水上さん:そんなことを言っているのは私だけだけど。
―「IKKOAN」に書かれている72の季節
えびさわ:水上さんのご本「IKKOAN」は、日本の文化をどんどん世界にも広めて、和菓子ファンがさらに増えているようですが。
水上さん:いろんな国の人に「お宅の国は、季節がいくつありますか?」と聞くと、大体4つだと答える。で、赤道直下の国の人は2つ。雨が降ってなきゃ暑いとか蒸すとか、そんな気候でしょ。でも、日本は72ありますよって話すと、大体びっくりされる。
えびさわ:それはびっくりしますよ。
水上さん:そして、「それはどういうことよ?」って言われる。365日を72で割ると5だよね。つまり、5日に1回季節が流れる国だと説明している。
えびさわ:実は「IKKOAN」を拝見して初めてこの事を知り、すごいなと思いました。
水上さん:いや、みんなそうですよ。
えびさわ:季節ごとに全部名前があるのですか?
水上さん:そう、中国の易の本が由来です。例えば、雀始巣(すずめはじめてすくう)の時期。すずめが〇〇をしない時には、こんな災いが起こりますよっていうのが中国。で、日本はそれを全部とっぱらって、季節だけ楽しみましょうという感覚だと思う。だから読んでいて面白い。
えびさわ:1つずつに季節があって、それが全部日本語と英語、フランス語に翻訳されている。国際的に作られた本で、素晴らしいですね。すでに第4版までなのですね。
水上さん:最初はクラウドファンディングで出版させてもらいましたが、お蔭様で。お菓子の本というよりは、どちらかというと美術書みたいな感覚で見ている人が多いんだよ、特に外国人は。お菓子の本としては面白いかなと思って。
えびさわ:日本人が読むべき本だと思います、私は。この国には72も季節があることを伝えていかなければと、改めて感じる素晴らしい本ですね。
―和菓子の歴史 外国との関係
水上さん:「和菓子」という言葉ができたのは明治維新です。
えびさわ:そうなのですね。それで、今まではどう呼ばれていたのですか?
水上さん:それまでは「お菓子」。西洋の物はこれまではなかったから。カステラや金平糖が入ってきたし、中国からも入ってきたけれども、日本の職人が自分で消化して、新しいもの作るわけ。外国の文化を取り入れても、それを最初は真似して乗り越える物を新たに作り出すのが、日本の文化の特徴だといわれているけど、納得するよ。
えびさわ:江戸時代までは、「日本のお菓子」って考えがなかったのですね。
水上さん:それで明治維新に西洋との交流が始まり、新しい文化が入ってきて、鹿鳴館などが生まれて。その辺から洋と和の区別ができてきた。そして、洋と比べて和が後進的な文化として見られるようになって、今日までずっと来ているわけですよ。だから、和の文化をもう一回見直す機会を、お菓子を通して発信していかなければいけないのかな、と。
―外国人を魅了する美しさ
水上さん:外国人が日本の文化に興味を示すようになったけど、下手な日本人よりはるかにすごいよね。数年前にロシアの女の子が、うちに勉強しに来たことがあったのですよ。彼女は日本の文化が好きで、独学で日本語や和菓子を勉強していたの。それでサンクトペテルブルクにあるヴィーガンのレストランで、和菓子を作って出していたのだけれど、どうしても本来の和菓子を勉強したいということで、友人を通じて紹介されました。1か月ホテルを自分で予約して通ってきて、そんな事を3回繰り返しました。
えびさわ:修業をここでしたのですか?すごいですね。
水上さん:観光ビザなので、1カ月単位でしか入国できないから。
えびさわ:1度帰国してまた来て、を繰り返す。すごい気力ですね。それだけ日本の文化を愛してくれたのでしょうか。
水上さん:そう、だからそぼろ状のあんに包まれたきんとんを見て、繊細さに感激して涙を流すんだよ。この本を見たフランス人のパティシエの方が、テレビ局を連れてここに来たこともありました。
えびさわ:細かい作業や美しさに、外国の方は感動するのでしょうね。
水上さん:それから、日本の和菓子は宗教と関係ない。例えば、何を使っているから食べてはいけませんとかそういうことはない。どんな宗教の人でも食べられるのですよ、農業が基本だから。
えびさわ:和菓子の中に小さな四季がキュッと閉じ込められている感じですよね。
―和菓子の奥深さ あんこの区別
水上さん:ところで、つぶあんとつぶしあんの区別って知ってます?
えびさわ:殻があるかないかですよね。それではだめですか?
水上さん:殻がなかったらこしあんになっちゃう。つぶあんは、小豆をつぶさないように炊いた粒のまんまのあんこ。つぶしあんとは、それをつぶしたもの。だから、極端なことを言えばこしあんに小豆の皮が入っている状況。今では区別が付く人って、菓子屋でもほとんどいないよ。
えびさわ:つぶあんとこしあんではなくて、つぶあんとつぶしあんの区別なのですね。それはご自分で勉強したのですか、それとも丁稚奉公中に教えていただいたのですか?
水上さん:そうだよ、昔から区別がきちんとあるのだから。それで、京都ではつぶあんを勉強し、名古屋ではつぶしあんについて学びましたよ。名古屋のつぶしあんは本物です。そういう文化をちゃんと理解してお菓子を作っていくと、非常に面白いよ。
―文京区に和菓子の文化を広める
えびさわ:先ほどのあんこの区別は、すごく勉強になりました。このことを多くの人に、特に未来を担う子どもたちにはぜひ知ってもらいたい、と思いました。文京区の職業体験の生徒さんが水上さんの所には、いらっしゃいますか?
水上さん:来ますよ、区内のいろんな中学生が。
えびさわ:中学生に職業体験を通じて、和菓子だけでなく日本の文化を伝えていただけることは、本当にありがたいです。
水上さん:最近は、あんこが嫌いな子どもが増えているから、「実はこんなにおいしいんだよ」って教えたいよね。あんこが嫌いな子が増えるのは、誰が悪いわけじゃなくて菓子屋が悪いわけだから。ちゃんとした物をきちんと提供すること。
えびさわ:最近の子どもたちが和食を知らないから、文京区では給食で「和食の日」を制定しています。しかし、「和菓子」の言葉はいつから使われたかだとか、「和を以て貴し」の和は「やわらぎ」だということをしっかり教えていくことが大事だなって、水上さんのお話を伺い、改めて思いました。
水上さん:そうそう、17条の憲法ってすごいんだよってね。
えびさわ:それから72も季節があるってことも、ぜひお願いします。ただ給食を和食にするのではなく、歴史もしっかり話していかないと、日本の文化を伝えることにはならないなと思います。機会を作って、小学生や中学生に話していただいていいですか?
水上さん:小学生はなかなか難しいかな、中学生だったらば、分かるのだろうけれども。こないだ、窪町小学校の2年生にネット通じての和菓子の講習はやったけども、なかなか難しかったよ、和なんて言ったって、理解できないよ。17条の憲法を学校で習った子だったらば、伝えられるかもしれないけれども。
えびさわ:とはいえ今日のようなお話を、ぜひとも子どもたちにもして欲しいです。私の勉強にもなり、本当に感動いたしました。また、よろしくお願いします。今日はお時間取っていただいて、ありがとうございました。
参考リンク
- IKKOAN 一幸庵 72の季節のかたち(amazon)
- 一幸庵(instagram)